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【エッセイ】〜無線通信の歴史に触れる〜ウェスト・ポイント米国陸軍士官学校と博物館を訪ねて〔筆者:日本クラブ事務所長 前田正明 〕
07/08/22
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ブラークリフ・マナー(Briarcliff Manor, NY)の我が家から、北に車で1時間ほどの所にモールス符号の発明者として有名なサミュエル・モールスが住んだLocust Groveがありますが、そのハドソン川を挟んでほぼ反対側(西側)にウエストポイント陸軍士官学校と博物館があります。
ウェストポイント陸軍士官学校(United States Military Academy)
1802年に第3代大統領のトーマス・ジェファーソンにより創設されました。大学ランキング(US NEWS)でリベラルアーツの大学として全米で18位くらいの難関大学で、4,000人以上の学生がいます。卒業後の任官の義務はありますが、基本は全寮制で授業料も含めて入学者の負担はありません。卒業式での帽子投げはここの伝統であり、すでに多くの大学に広まっています。他に海軍兵学校のNaval Academy(Annapolis, MD)とUnited States Air Force Academy(Colorado Springs, CO)がありますが、ウエストポイントが全米で最古でです。
一般の大学と違い自由に出入りはできませんが、パスポートや米国運転免許証などのフォトIDを持参して登録すれば、学内を回るバスツアー(約1時間)に参加できます。ツアーは事前にWebで予約できます(West Point Tours)。また、博物館とビジターセンターは無料で入場できます(West Point Museum)。
学内とツアー
ウエストポイントでは各種のスポーツが非常に盛んであり、特にフットボールは大きなスタジアムがあります。運が良ければいろいろなスポーツのトレーニングをしているところなどが見学できます。ツアーにはカデット・チャペル(Cadet Chapel)も含まれ、ここには歴代の学長が座る最前列の席が刻印されており、第二次大戦後、日本に駐留したマッカーサー元帥が学長時代のネームプレートもあります。彼はウエストポイントを首席(First Captain)で卒業しました。現在、女性の入学は20%を超えており,このFirst Captainはすでに5人の女性に与えられているそうです。キャンパス内にはハドソン川を望む高台に南北戦争のモニュメントがありますが、全ての砲台は上空を向いています。これは戦争当時、ウエストポイントの教官や学生も南軍・北軍に分かれて戦ったので、「二度と米国内で戦火を交えない」という誓いのために上を向いているそうです。
博物館と無線・通信に関する展示
博物館(West Point Museum)には独立戦争や南北戦争、そして第一次・第二次世界大戦のころの兵器や制服などが展示されています。戦地でのコミュニケーションはやはり大きな課題であり、1コーナーが割かれています。
冒頭の説明によると、第1次大戦では軍の部隊は大きくなり,その相互の指揮命令系統(すなわち通信)は大変重要な機能とされていました。通信としては主に電信が利用され、視覚による通信(手旗信号)やメッセージの伝達(人間による配達)は徐々に姿を消していきました。第一次世界大戦での塹壕内の通信は主に無線や有線電話といった革新的な手段が取り入れられました。一方,有線通信は敵軍による盗聴の問題が常に付きまとったようです。無線は当初は大きなアンテナであり破損しやすい装置でしたので,陸軍では戦闘の指揮命令に本格的に取り入れられるには少し時間を要したようです.展示されていたものの中から代表的なものを紹介します。
(1)19世紀後半の電鍵
1830年代にサミュエル・モールスにより発明されたモールス符号は、同氏によるメリーランド州ボルチモアからワシントンD.C.間の商用電信サービスの開始(1844年)を皮切りに、1861年までに全米のメジャーな都市はほぼ電信で結ばれました。これが最初の即時通信網であり、電子機器によるコミュニケーション産業の始まりで、米国が東海岸から西海岸まで極めて密に接続されたことになります。(2)ドイツ軍の電話機
この一風変わった電話機はベルギーへの米軍の進撃の後に押収されたもので、実際にドイツ軍のヘッドクォーターで使用されていたものです。通常の電話機に第三者が傍聴できるヘッドセットが付いています。第三者は会話に参加できないので記録要員がメモを取るような用途に使ったのだろうと思われます。(3)陸対空で利用する通信機
飛行機と地上部隊との間で無線通信を行う機器です。ノイズ・レベルの高い飛行機の中との通信には高性能なマイクロホンの開発が必要でした。飛行機により偵察した情報は即座に地上部隊に送られ、歩兵や砲兵の進軍のための前線の情報収集に活用されました。(4)第一次大戦時代の手旗信号
日中でかつ視界がある場所でと限られますが、第一次大戦初期にはこれが重用されていました。有線の電信や電話が発達した後でも、それらが利用不可能なシチュエーションでは活躍していたということです。無線通信がフィールドで利用されるようになって,その座を譲りました。(5)伝書鳩と犬用のメッセージ首輪
1918年に米軍に捕獲された、ドイツ軍が放った犬が着けていたメッセージを入れる首輪が展示されています。犬はこのメッセージの配達以外にも,塹壕の中でのネズミ退治など、兵士のために大変威力を発揮しました。ハトや犬はその姿は小さくとも,第一次世界大戦初期には大変大きな役割を果たしたそうです.(6)Hello Girl
第二次世界大戦の際、制服を着用した女性の電話交換手を描いたリトグラフの絵画です。イギリスおよびフランスで活躍したということですが、当時は200人以上の女性電話交換手がいて、前線に近い危険な場所でも勇敢に従事していたそうです。(7)スーベニアショップ
フットボールを始め、各種スポーツのジャージおよびTシャツが豊富に揃っています。スポーツの対戦相手は何と言っても海軍(Navy)なので、打倒Navyのグッズもたくさんあります。黒と金の2色がスクールカラーです。<バーチャルツアー>
ウェストポイント陸軍士官学校のバーチャルツアーはこちらからご覧いただけます。United States Military Academy
Visitors Center
2107 New South Post Rd, West Point, NY 10996
(845) 938-2638
https://www.westpoint.edu/West Point Museum
2110 New South Post Rd, West Point, NY 10996
(845) 938-3590
https://history.army.mil/museums/IMCOM/westPoint/index.html#about<マンハッタンからのアクセス>
● 電車
グランドセントラル駅からMetro-North Railwayに乗車、「Peekskill」(ピークスキル)駅で下車し、駅からはタクシーで約20分です(Highland FallsかPeekskill Cabへ電話であらかじめ予約ができます)。
● バス
ポートオーソリティーからビジターセンター行きのバスが出ています。片道約1時間40分で$15、Shortline社がDay tripのパッケージを提供しています。
● 車
複数人でモールスの史跡のLocust GroveとセットでLimoサービスを1日チャータする、あるいはレンタカー利用も考えられます.車でマンハッタンから約1時間です。*このエッセイはCQ Ham Radio誌2022年6月号に掲載されたものをウェブサイト用に編集しました。