展覧会
「小林七郎―光と闇のドラマ」展
Background drawing by Shichiro Kobayashi for TV anime Simoun, 2006, Watercolor, poster color, pen on paper, 9x14in., ©SOTSU, Studio DEEN/Simoun Production Committee
日本クラブ7階の日本ギャラリーでは、「小林七郎―光と闇のドラマ」展を開催いたします。本展では、テレビアニメの草創期から活躍したアニメ美術の第一人者で、2022年8月25日に89歳で惜しまれながらこの世を去ったアーティスト、小林七郎(1932ー2022)を追悼する回顧展として、絵画作品とアニメーション背景画を展示します。
ニューヨークでの個展開催は小林の生涯の夢でありました。アニメ史そのものの人生を歩み国内外のクリエイターや愛好家に多大な影響を与えた小林が、画家として具象と抽象の中に自然の美と無限の力のイメージを追求し続けた、その世界をご紹介し、軌跡を振り返ります。
テレビアニメ草創期の1964年、小林七郎はアニメーション美術の世界で活動を開始し、翌年に「宇宙 パトロールホッパ」の背景4本を手掛けました。31歳で東映動画に入社し、幼い頃よりの夢だった絵を描く仕事に就いた小林は、「極楽だと思いました。好きな絵を描いて食べていけるわけですから」と当時を振り返りました。
1968年の小林プロダクション設立を経て、2011年までの46年間にわたり、小林は数多くの作品で美術監督を歴任し、背景美術を手掛けました。その功績が評価され、2011年の文化庁映画功労賞をはじめとする多くの賞を授与されたほか、2015年と2017年にパリで開催されたJapan Expo(ジャパン・エキスポ)での講演、2016年のルーブル美術館ランス別館での展示および美術専門学校での講演と実技指導、2018年のクウェート政府機関主催の講演と実技指導に招待され、世界での評価がますます高まっています。
代表的な作品には、「巨人の星」(TV 1968-71)、「ムーミン」(TV 1969-70)、「新オバケのQ太郎 」(TV 1971- 72)、「ど根性ガエル」(TV 1972-74)、「パンダコパンダ」(映画 1973)、「はじめ人間 ギャートルズ」(TV 1974-76)、「ガンバの冒険」(TV 1975)、「元祖天才バカボン」(TV 1975-77)、「まんが世界昔ばなし」(TV 1976-79)、「宝島」(TV 1978-79)、「ルパン三世 カリオストロの城」(映 画 1979)、「家なき子」 (映画 1980)、「あしたのジョー2」(映画 1981)、「コブラ」(映画 1982)、「ゴルゴ13 (映画 1983)、「うる星やつら 2 ビューティフル・ドリーマー」(映画 1984)、「うる星やつら3 リメンバー・マイ・ラヴ」(映画 1985)、「タッチ」(TV 1985-87)、「天使のたまご」(押井守、ビデオ 1985)、「ルパン三世 風魔一族の陰謀」(映画 1987)、「ヴイナス戦 記」 (映画1989)、「藤子・F・不二雄アニメスペシャル」(TV 1989)、「少女革命ウテナ」 (TV 1997、映画 1999)、「剣風伝奇ベルセルク」(TV 1997-98)、「BASARA」(TV 1998)、「To Heart」(TV 1999)、「ピカチュウたんけんたい」 (映画 1999, 2000)、「ピカチュウのドキドキかくれんぼ」(映画 2001)、「シムーン」(TV 2006)、「のだめカンタービレ」(TV 2007, 2008, 2010) があります。
「かつて観たこともない映像を」を合言葉に、アニメーション監督の出崎統氏(1943-2011)とタッグを組んだ「ガンバの冒険」「家なき子」では、テレビアニメの制約の中で、自由な発想と情熱をもって表現の可能性に挑みました。省略と強調が特徴的な独自のスタイルと実験的な技法の数々は、アニメーション表現の幅を大きく広げる礎となり、後進のクリエイターに大きな影響を与えました。映画 監督でアニメーション演出家の押井守氏(1951年生)は、「小林さんの仕事の仕方は一種のカルチャーショックでしたね。全然空間の作り方が違うんです。・・・きちんと理論を踏まえた上でレイアウトを描くんです」と語ります。またアニメーション監督で脚本家の望月智充 (1958生) 氏は、「七郎 さんが美術監督でさえあれば、バックグラウンドだけでも・・・空気感を持っていて、それが作品世 界をちゃんと作ってくれるんですよね。・・・美術の特徴ですか・・・まず第一に光と影の描写でしょうね」と証言しています。 〔注〕
Photo Left: Shichiro Kobayashi, 2021 Photo Right: Untitled, 2021, Oil on canvas, 37.4 x 46 in.
2011年の小林プロダクション閉所後は、画家として精力的に制作を続けました。生まれ育った寒村(北海道常呂郡置戸村:現置戸町)の厳しく美しい自然の記憶や、日常の美を捉えた具象の世界と、シンプルで伸びやかな表現で非日常とオジリナリティーを探る抽象の世界で、自らのイメージを追求しました。
デジタルによるアニメーション制作が主流となる中、小林は「手業」の可能性と、無からイメージを 作り上げる人間の無限の力を信じ、その継承を願いました。「これから生の映像を作っていただきた い。加工映像ではなくて。加工映像、口当たりは良くても本当のおいしさではないと思います。生な映像、生な手作りの映像を盛んにしていただきたいです」と小林は後世のクリエイターに語っています。アニメーション背景画の手描きならではの力強さやテクニックと、小林が絵画の中に生涯追い求めた「自由」という未知なる意外性と驚きの世界をお楽しみください。
本展のキュレーターは在ニューヨークで活動し、朝日新聞社と「メトロポリタン美術館古代エジプト展 女王と女神」(2014年、東京都美術館、神戸市博物館)を実現し、コシノヒロコや小松美羽をニューヨークで初めて展示するなど実績がある佐藤恭子が務めています。(敬称略)
〔注〕「⼩林七郎画集 空気を描く美術」スタジオジブリ責任編集、徳間書店、2002年
主催:アトリエ・コバ 小林康子、株式会社J’SHA
ゼネラルプロデューサー:小澤明美(芸能プロダクション ACTVISION)
キュレーター:佐藤恭子、川添さやか、小澤明美
協力:Anime NYC、一般社団法人漫画芸術、一般社団法人ドリーマーズアソシエーション
特別協賛:エルアスティ・マロワン
協賛:KOSHIN RENTALS,INC.
本展の開催には、以下の方々のご協力をいただきました。
アダム・シーハン、小野華蓮、カーリー・タウンゼント、クリーク・シュレイ、田村勇人、鈴木ひろみ、栗原R.裕、佐藤 薫、前田正明、黒須信彦、ピーター・タタラ、リチャード・フォード3世、田村修介、作田貴志、陣川 樹、萩原敏子、本多康子、小原有香子、若田勇輔(順不同、敬称略)
会期 | 2022年11月16日(水)- 11月22日(火) |
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開催時間 | 10:00 am - 6:00 pm (月-金)・10:00 am – 5:00 pm (土)・日休 |
場所 | 日本ギャラリー (日本クラブ 7階) 145 West 57th Street, 7th Floor, New York, NY 10019 |
入館料 | 入場無料 |
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